各地のイベントから—岩手詩祭2022、宮古島市における「詩の祭典」、中四国詩人会・岡山大会報告、いばらき詩祭2022in取手、長野県詩人祭・講演、関西詩人協会総会・講演
各地のイベントから
岩手詩祭2022
岩手県詩人クラブ会長 照井良平
本年度の岩手詩祭もコロナ禍を意識しつつ2022年10月22日に「風を起こせ ここから詩をはじめよう」をテーマに無事開催することができた。
詩祭の第1部では岩手県詩人クラブ元会長で日本現代詩人会の会員でもある東野正氏の「詩の門前」と題して講演がなされた。
その内容は、副題に「詩に対する私の偏見と固定観念」とあるように、もしかするとそうであるかもしれないが、そこに別の見方が入れば、違った私の詩とはがあるのかも。とカフカの小説「掟の門前」にヒントを得て、詩にはピタリとくる定義があるのか。詩は悲鳴?、詩は怒り?、…などなど。佐藤春夫等8人の先人の定義をあげ解説。その中で独りよがりにならないためには確実な他者、信頼できる読者を一人でも得ること。作品の外部にいる第三者の評価が必要であること。また読む書くことで自己の解読、発見と形成にも深く繋がっていると強調していた。
形のあるまとめはできないが無理にまとめると。「言葉を書くこと、読むこと、思考すること、感受すること。希望を、絶望を、夢を、不満を、饒舌にあるいは納弁で内省的にあるいは高ぶった声調で書き取ること。心の嘆きを、苦しみを、あるいは透明な心境を、静寂感を、喧噪を、唾棄したいこと、肯定したいこと全否定したいこと」を書き取ったものが詩?なのか。迷いながら思ったりしている。と述べ、吉本隆明の「自分に向かって書く、自分を慰めるために、納得できるものを書く」が最も適当なのかと締めくくっている。
第2部ではアンソロジー詩集「いわての詩2022」版の合評、自作品の朗読会を時間の許す限り行い、希望者全員の参加を得ることができた。それは個性の溢れるものであり、互いに次の試作に繋がる刺激を受けた、有意義な詩祭であった。
宮古島市における「詩の祭典」
令和4年10月29日 宮古島市未来創造センター
下地ヒロユキ
今年の「第37回国民文化祭、第22回全国障害者芸術文化祭」は、沖縄県の本土復帰50年を記念し「美ら島おきなわ文化祭2022」として開催され、分野別の「詩の祭典」は宮古島市で開催された。テーマとして「海~言霊 海を超えて」が設定された。
全国から、409編の応募があり個人的には少ない印象がした。小学生、中高生、一般の各部門にそれぞれ七つの賞が贈られた(文部科学大臣賞、国民文化祭実行委員会賞、沖縄県知事賞、宮古島市長賞、宮古島市教育委員会教育長賞、日本詩人クラブ会長賞、日本現代詩人会会長賞)。審査員は網谷厚子、秋元炯、遠藤ヒツジ、市原千佳子、佐々木洋一、佐藤モニカ、高塚謙太郎の各氏に審査委員長は下地ヒロユキ。小学生、中高部門に関しては30名まで地元、文化協会会員の皆様に絞り込みをお願いした。一般部門は108編全員を8名の審査員で行った。その後、各部門から7名ずつ選び投票したが審査員それぞれの好みと評価が分かれ、まとまらず再度3人ずつに絞り込み投票。小学部、中高部は決まったが、一般の部は首位が同点となり実行委員会の勧めで地元審査員に委ねることとなり、ちょうど地元二人の票が同じ作品に入っていたため、その作品を首位とした。この選択は当然、地元が変わればひっくり返るほど二編の作品は、スタイルは異なるが甲乙つけがたい作品であった。開会は地元、宮古島少年少女合唱団による合唱で始まり、授与式は市長、教育長から日本詩人クラブの網谷厚子氏、日本現代詩人会の佐川亜紀氏と続いた。その後、合唱団による作品群読が行なわれ素晴らしいものであった。講評報告は下地ヒロユキが行った。後半部の講演では山里勝己(名桜大学元学長)氏が「ゲーリースナイダー・与那覇幹夫・琉球語」との関係から翻訳の問題を論じ、詩人の高良勉氏は自身の第一詩集と宮古島との繋がりを「場所」との関わり方から論じた。どちらも宮古島の持つ詩の密度を好意的に評価していた。ご尽力いただいた開催関係者、協力者の皆さんに心から感謝申し上げます。
中四国詩人会・岡山大会報告 岡山大会事務局 中尾一郎
時計がやっと少しずつ動き始めるように中四国の各県を会場にして毎年開かれてきた大会が2022年10月29日岡山国際交流センターを会場に開催された。前回の広島大会から三年振り。「お元気でしたか」と互いに声を掛け合う。顔が「笑顔」になるのが分かる。やっぱり直接、声を聴くのはいいものだ。
長津功三良会長の挨拶で始まり、広島の北村均理事を議長に選出し、総会行事。川辺真理事長から経過報告や決算報告・事業計画・役員改選等の提案があり承認される。かわかみよしこ理事から中四国詩集2023についての提案もあった。
次に、功労者表彰式。中四国詩人会の立ち上げに尽力された岡隆夫顧問への感謝状の贈呈。中四国の詩人たちの交流を図り、優れた詩を拡げていくことの大切さを感謝の言葉の中で語られた。中四国詩人賞・中四国詩集・ニューズレターなどが途切れることなく続いていて定着していることを何よりも嬉しく思っているとも。
続いて中四国詩人賞の表彰式。森崎選考委員長から選考経過の報告。受賞詩集は、山下耕平氏の『ほしのやーたち』(本多企画)。受賞者の挨拶と作品の朗読があり、山下ワールドを愉しんだ。会場に昨年度の受賞者の漆原正雄氏がおられたので、昨年度、表彰式ができなかったのでスピーチをお願いした。
記念講演に移り、森崎昭生氏から、「正富汪洋と竹久夢二の性格と詩~瀬戸内市(旧邑久郡)が生んだ2大詩人~」という演題での話。汪洋と夢二は本庄村で生まれた幼馴染で遊び友達だったとのこと。農業主体の小さな集落で少年時代を過ごした二人が、まったく異なる詩風の作品を書き、現在でも読み続けられていることは稀有なことだと森崎氏は言う。関東大震災のことを題材にした「大地震の後四日」(汪洋)「暦」「動かぬもの」(夢二)を例にしての話など興味深い話が続いた。
七波と八波の間隙を縫うように開催することができ、直接に逢うことの幸せを感じることができた大会だった。
いばらき詩祭2022in取手 開催 茨城県詩人協会 塚本敏雄
十一月十二日(土)茨城県の取手市福祉会館を会場として、「いばらき詩祭2022in取手」が開催されました。茨城県の詩祭は、現在、県内各地を巡回して開催しています。これは、県内の会員が参加しやすいようにして、県内に茨城県詩人協会の活動を周知し、併せて会員相互の交流を活発にするためです。
交流と言うことでいえば、取手市の方々との交流ということも考え、取手市教育委員会に相談したところ、田代しゅうじさんという少年詩の詩人の存在をご教示頂きました。同じ詩というジャンルながら現代詩と少年詩はあまり交流がありませんので、そういう意味でも良い交流となると思いました。しかし、実は田代さんは八月にお亡くなりになっていたことを取手市教育委員会からお聞きし、大変驚きました。せっかくのご縁が繋がりそうなところでしたので、そのまま終わりとするにはあまりに忍びなく、会の冒頭で、これまでの経緯を説明し、田代さんの経歴やご著書等について紹介させて頂きました。
今年の詩祭の内容は、金井雄二氏、黒羽由紀子氏の講演と、会員等の自作詩朗読でした。金井雄二氏の講演は、「きみと詩の話をしよう」と題し、ご自身の詩的来歴等について、お話し頂きました。金井氏は、詩集のみならずエッセイ集も出されていて、詩に関するエッセイも多数あり、大変興味深いお話を頂きました。黒羽由紀子氏は、「いま私たちに呼びかける良寛さまの心」と題し、良寛とご自分の詩についてお話し頂きました。黒羽氏が長年取り組まれている良寛さんをテーマとした詩も紹介して頂きました。
自作詩朗読のコーナーでは、山中真知子、渋谷眞砂子、谷畑すみ子、坂木昌子、岡部千草、岡和田晃の六氏が自作詩を朗読して下さいました。
取手市は茨城県の最南部で、千葉県に接している土地柄ゆえ、千葉県の詩人にもおいで頂き、千葉県との交流も出来ました。麗らかな秋の一日、有意義な時間となりました。
講演会報告
私が出合った詩人たち ―小出ふみ子と慶光院芙沙子―
長野県詩人協会副会長 酒井 力
第三十三回長野県詩人祭がコロナ禍にもめげず、松本市勤労者福祉センターで開催された。講師の日本詩人クラブ会長北岡淳子氏から、予め用意された資料を基に、二人の女性詩人について拝聴することができた。
かつて信州で長野県詩人協会会長も務め「新詩人」を主宰し、多くの詩人との関わりをもち、詩人の育成に努めた小出ふみ子の仕事について、年譜からたどり、『小出ふみ子詩集』を紹介する一方、彼女とは対照的ともいえる慶光院芙沙子という詩人の感性と生き方について、「無限」を中心に北岡氏自身の彼女との密接な交流のエピソードを交え、実感をこめて語った。松平家につながる家柄に生まれ、気品に満ちた芙沙子の入院時の表情も紹介するなど、履歴の対比を含め、二人の詩人の生き方と詩からその考え方にせまる内容で、北岡氏自身が出合って直に得てきたこと、いま、学ぶことなど、淡々と進める語り口には実感もこもり、訴えるものがあった。
二人の詩人の詩作品を講師がすべて読むのではなく、県詩協の若手新入会員二名に朗読を依頼し、会員もまったく臆せず、即座に見事な朗読をするなど、会場に共有意識を生み盛り上がった。今では話題から遠くなった詩人たちに脚光を当てる北岡氏の熱意を強く感じる有意義で充実したひとときだった。
左子真由美 講演 ジャック・プレヴェール 関西詩人協会 島 秀生
令和四年十一月二十三日、関西詩人協会総会が、出席48名、委任状103名(事前申込数名はZOOM視聴)で行われ、その第二部として、講演、関西詩人協会自選詩集第10集(会員115名参加)の出版記念などが行われた。
今回の講演は、関西詩人協会代表・左子真由美氏による「詩のよろこび、詩の力 ジャック・プレヴェールの詩とともに」。講演者による内容要約は以下のとおり。
「私は20歳でプレヴェールの詩と出会ってから彼の詩の虜となり、乏しい語学力にも関わらず翻訳などを試みてきました。『彼は文学から来たんじゃない。街から来たんだ』というリブモン・デセーニュの言葉が、一言で彼の詩を表していると思います。平易な詩ばかりです。
プレヴェールは二つの大戦を経験し、シュルレアリスムやキュビズムなど大きな変革の時代、狂乱の時代のなかで、規制の概念や自由を奪うものへの抵抗を詠いました。
彼は映画の脚本家としても数々の名作を残しています。中でもシャンソン『枯葉』と映画『夜の門』のエピソードや、フランス映画史に燦然と輝く『天井桟敷の人々』について、また、詩集『パロール』の誕生のいきさつと詩集の中の数篇の詩の紹介をさせて頂きました。
最後に名詩『バルバラ』について。バルバラの詩のまさにその場所に立ちたくて、私はこの夏、ブルターニュの軍港ブレストまで行って来ました。第二次世界大戦で壊滅的破壊を受けたブレスト。そのブレストと詩の舞台になったシャム街の写真をプロジェクターで投影しながら『バルバラ』を朗読。そして、プレヴェール自身による朗読も一緒に聞いて頂きました。
お伝えしたかったのは、詩は心を閉じ込めるものではなく、解放するものであり、よろこびを与え、生きる力を与えるものであってほしいということです。プレヴェールの詩をご紹介できるという大変良い機会を与えて頂き、本当にありがとうございました。」